公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2021年9月





〈説明〉

 発声練習を繰り返す程、声の調子がよくなる人と、声を出す程調子が悪くなる人がいるのは昔から知られている事ですが、その原因は声帯の違いではないかと思います。昔からよく言われているのは、『喉から血が出る程声を鍛えた人は、発声練習をすればする程よくなる』という事ですが、最近そのような事を言う人はほとんどいません。そのせいかどうかは分かりませんが、スタジオ録音の時など、ほとんどの人が、一回目が一番良く、二回目、三回目と繰り返す程に悪くなってきます。 声帯(実は周りの筋肉)は短時間に酷使すると充血してブヨブヨの状態になり、本来の振動ができなくなるという耳鼻科医の話を聞いた事があります。たぶんこれが一般の人の声帯なのだろうと思います。つまり何度も吟じるとまともな声が出なくなってくるという声帯です。では、何度も繰り返す程によくなってくる声帯というのはどんな声帯なのか。つまり何度も繰り返すことで、ようやく本来の機能を取り戻すという事ですから、最初の状態は正常ではないという事です。ある程度慣らし運転をして声帯の周りが充血して初めて予定通りの振動が得られるという特殊な声帯です。素人考えですが、やはり長年声を使う仕事をされてきた方の声帯で、普通の状態ではないのだろうと想像します。私の45年の吟詠伴奏の経験から推し量りますと、透 き通った奇麗な声の方は大抵、回数を重ねると声が荒れてくるような気がします。逆にハスキー掛った、重い感じの声の方は繰り 返し吟じると次第に艶やかになってくる感じです。あくまでも私の感じた印象ですが・・・・・・。

 とにかく、繰り返しに強い声帯と弱い声帯とがあるという事は間違いありません。ご自分の声帯がどちらなのかをしっかり自覚して本番に臨んで下さい。

   風邪をひいたわけでも練習をし過ぎたわけでもないのに、本番に限って声が思うように出ない。つまり緊張が原因で声に力が入 らないという場合があります。少壮のコンクールは特に緊張するというお話ですが、それは人によりさまざまです。

 昔、吟が上手でよく知られた方で、少壮コンクールを3回失敗してやめた人がいましたが、誤読と時間超過でした。緊張したのかと尋ねましたら、全く緊張はなかったと言ってました。もっと驚いた事は、全く練習はしていかなかったとのこと。三回目の時、『すべての吟を暗記してきたやつがいてびっくりした。かないっこないさ』と、投げやりな事を言ってました。この方が緊張しなかった原因は二つあります。絶対的な自信があった事。本番に向けて準備も努力もしてなかった事。つまり『駄目で元々』の立場であり『入賞すればもうけ物』の気構えであったと言う事です。落ちても失うもの無し。『出吟者に俺の吟を聞かせてやろう』というくらいの上から目線だったと思います。したがって失敗しても吟がまずかったわけではないという意識のようで、落ち込む様子もありませんでした。

 私は機会ある度ごとに『諦めが肝心』と説いてきましたが、この方の場合は『諦め』以上でした。ン??以下と言うべきでしょうか。

 諦めれば落ち着くと言う事は誰でも理解できると思いますが、諦める事が難しいのです。諦めないから一生懸命準備と練習を重ねて来てこられたわけですから、当日だけ正反対の心境になれと言うほうが無理な話です。前日までは『諦めずに努力』。当日は『諦めが肝心』これも訓練です。