〈説明〉
詩吟の音階「陰音階」は、図1のように1オクターブの中で2カ所、4本違いの個所があります。「ファ〜ラ」の間と「ド〜ミ」の間です。
一般的な吟法では、高音の「ド」を吟の節にしようとするとき、語句が頭高と中高のとき、高い方の音程を高音の「ミ」にして、「ミド・・・(雨)」や「ドミド・・・(晴れる)」という節にします。これは言葉のアクセントをそのまま節に移すための方法で、最高音の「ミ」は一瞬だけ顔を出し、この瞬間だけウラ声にするのが普通の吟法です。「ド〜ミ」が4本差のため「ミ」がウラ声で自然なのです。因みに平板の語句の場合は「シド・・・(雪)」や「ラドド・・・(曇り)」のようになり、最高音の「ミ」は使われません。
このように一番高い節を「ド」とする吟法の場合、最高音の「ミ」は一瞬ですが、ご質問の内容は一瞬顔を出す「ミ」ではなく節の中心が「ミ」である場合の話だと思います。例えば「ドミ・・・ミ・・・(一腔の)」や「ドミミミミ・・・(千載の)」のとき、オモテ声で最高音の「ミ」を発声したいということだと思います。
近年は剛吟を好んで選ぶ人も会派も減りましたが、一昔(ふた昔?)前までは多くの人が剛吟を好んで吟じていました。その中の一つのスタイルとして「絶叫型」の吟があります。多くの場合、転句の冒頭に「ド」ではなく最高音の「ミ」の節を使い、しかもウラ声ではなくオモテ声で吟ずるため、異様なほどの高揚感を表現します。「ド」よりも4本も高く、しかもオモテ声ですから吟声はまさに「絶叫」または「悲鳴」と言っても過言ではありません。一般的には高音の「ド」が最高音であるところを、4本も高いオモテ声を出すのですから、異様な声になります。楽音とは言えない声です。まさに悲憤慷慨の叫びと言えるでしょう。
しかし吟詠は演劇とは違う形の芸術です。真に迫っている程良いというわけではありません。決められた音程のもと、前後の間合い、音量(声量)のバランスなど、あくまでも音楽の立場でなくてはなりません。昔のように「吟じ始めより2本くらい高く吟じ終わるのが良い」という時代ではありません。「余裕のある悲鳴」「芸術的絶叫」でありたいものです。
計算上は4本下げて吟じるのが適当ですが、転句の冒頭2〜3秒だけですから、人によっては1〜2本下げれば出るという人もいるでしょう。また、剣舞の伴吟などの時は多少無理があった方が効果的かもしれません。
いずれにしても普段ギリギリの本数で吟じている人は、一瞬といえども4本高いオモテ声を出すことは無理だと理解して下さい。高音の「ド」がギリギリなのですから、更にその4本上なんて・・・と考えるのが普通です。
一般的吟詠の話になりますが、普段ギリギリの本数で吟じていますと、最高音の「ミ」でウラ声にしたとき、それに続く節が下降線をたどってもウラ声のままになってしまう人が多いのです。男性にはほとんどありませんが、女性の多くに見られる現象です。
最高音「ミ」のウラ声の後に、オモテ声の「ド」を発声するためには「ド」が余裕の高さでなくてはなりません。特に初心者はオモテ声とウラ声の区別が曖昧な人も多いので、指導者がしっかりと支えることが重要です。高音の「ド〜ミ」も要注意ですが中音の「ファ〜ラ」も初心者にとっては落とし穴です。特にコーラスの経験者や、カラオケの趣味を持っているなど、ウラ声を得意としている女性の場合、オモテ声からウラ声になりやすいのが「ファ〜ラ」の4本上がる瞬間です。女性だからと思い、6本から始める事は勧められません。最初からウラ声になってしまう事が多いからです。1本から始め、いわゆる「地声」を確認する事を忘れずに・・・。