〈説明〉
最初に、琴やコンダクター、尺八などがいかに特殊な楽器であるかを理解していただくため、ピアノで詩吟の音階を演奏してみましょう。
Eの白鍵から「ミファラシドミ」と弾いてみると白鍵だけで演奏でき、とても弾きやすいことがわかります。このときの本数が8本です。しかしこれ以外の本数はみな黒鍵を必要とし、しかもその運指はすべて異なります。すべてということは21種類の運指を覚えなくてはなりません。バイオリンも同じように1本から12本まで、12種類の運指を覚えるのです。その点コンダクターは簡単です。弾き方は一種類で、本数の変更はスイッチを切り替えるだけ。尺八も、2種類の尺八を揃えれば1種類の弾きかたで詩吟の演奏ができてしまいます。しかし12種類の尺八を持ち歩くことそのものが不便で非現実的なので、実際には3種類の運指を駆使しながら、5種類くらいの尺八を用います。
琴(箏)の場合は基本的には筝柱と呼ばれるコマを移動して各絃の音の高さを変えますが、低い方も高い方も限界が早く音域が狭いので、一種類の運指ですべてを賄うことができません。例えば、コンダクターと同じ音階に調絃しますと3本ある絃は、低い方から「ミラシドミファラシドミファラシ」となり、これを平調子と呼びます。お琴の代表的調弦です。基本的平調子は一の絃が五の絃と同じ高さの「ミ」になっていますので、ニの絃がギリギリ下げられるところにすると、1本調子位にまで下げられますが、伴奏としては一の絃が低音である必要から、あまり低い本数にはできずギリギリ4本というところです。高い方も13番目の絃がまともに響く範囲で選ぶと、せいぜい8本調子位までです。
ここでもう一度コンダクターに戻ります。低い方の「シ」の音を「ミ」に見立てると「シドミファ#ソシ」が5本下の「ミファラシドミ」に聞こえます。この時のコンダクターに準じて調絃すると「ラレミファラシドミファラシドミ」となり、これを中空調子と呼び、一の絃を8本に合わせると、3本調子になります。
因みにお琴の絃の呼び名(生田流)は音の低い方から「一二三四五六七八九十斗為巾」です。
[表1]は、平調子の4、5、6、7、8本はそれぞれ中空調子の水2、水1、1、2、3本と同じ高さの調絃であることを整理して表したものです。
4本調子が低音の印象で8本調子が甲高く響くように、同じく水2が低音の印象で3本は甲高く響きます。
平調子の主音「三」の絃は「一・五・十」。中空調子の主音は「三・八・巾」。「巾(キン)」は十三番目の絃の呼び名。雲井調子の主音「ミ」の絃は「二・七・為」。「為(イ)」は十二番目の絃の呼び名。
[図1]はお琴の調絃の一例で代表的な基本の平調子を紹介します。図では一絃の琴柱が五絃と同じ高さにありますが、詩吟の演奏の時は一オクタブ下げます、右端の絃を押さえているところを龍角と呼び、この龍角と琴柱の間を専用の爪で弾きます。