公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
Nippon Ginkenshibu Foundation
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早淵鯉將宗家の海外普及活動奮闘記


ついに武道館大会へ吟剣舞道の逆輸入実現

海外での剣詩舞道の指導、それは大変難しく
実現は無理だと思われる方も多いと思います。
しかし、実は日本の方々を指導するのと大差はありません。
というより、ともすれば日本人より練習熱心でとても教え甲斐があります。
そのことを考えるとき、初代宗家の言葉「同じ地球に住む者に違いはない。
どこにあっても望む者がいればそこに行け!」を思い出します。
指導方法やどこに重点を置くかは多少日本人相手とは違うかもしれませんが、
その点については現在月刊誌「吟と舞」に連載して頂いている
私の記事を読んで頂ければヒントがあると思います。


 さて、私が海外で指導を始めて早30年になりますが、当時から海外での日本文化への関心度はかなり高く、また高尚なものであるとされて好まれています。そして、その根源にあるのが武士道精神という日本独特の精神文化であると。そして剣詩舞を習う際には必ず時代背景、誰が関わっているのか、その人物や行為を肯定しているのか否定しているのか、等の質問があり、それを詩心表現の材料にしています。もちろん日本の門下生も質問してはきますが、こんな事を尋ねては恥ずかしいという気持ちが邪魔をすることが多いようで、質問の深さは海外のほうがかなり深いと言えると感じます。

 このように我々日本人が忘れがちな、どこかくすぐったく感じるような事を真顔で得意げに話す門下生を見ていると、海外にい る事を忘れるというか、此処こそが自分の居場所なんだと思えてなりません。幸いなことに、6週間もの間日本食を食べなくても 全く平気な私にとっては非常に居心地が良く、また日本にいるよりも日本について学ぶことがたくさんあります。

 現在はヨーロッパではイギリス、フランス、ポーランドで剣詩舞道を教えていますが、彼らにも直面している問題があります。先ず、剣詩舞道というものの知名度が低い為に門下生が集まりにくい。特に剣舞などは武道であると見られる為に敬遠される方が少な くないようです。私の流儀においては居合道が基礎になって創流されていますのでそれも正しいことではありますが……。それ故、 その知名度を上げようと様々な催しに出るなど頑張ってはくれているものの、単独道場ではそれも限界があります。

 他流の剣詩舞道グループが存在しない、或いは存在していてもその情報が入らない為、海外門下生の活動といえば地元の武道大会へのゲスト出演、日本人協会等の催し、或いは異種ダンスコンクール等へのチャレンジといったそれぞれの地域のみでの活動であり、現地人による公演やコンクールといった活動はできておりません。つまり、お稽古しても披露する機会が少ないのです。これ ではなかなか多くの入門は望めません。度々稽古の時に話題に上がるのが、海外での剣詩舞コンクールの開催ですが、それを実現する為にも皆さんがどんどん海外において剣詩舞道の道場を開設されることを私だけでなく現地の門下生も望んでおります。

 もう一つの問題は、十一ヶ月間は日本人指導者が不在であることです。私が指導を始めた頃は多くの若い女性が詩舞の稽古を始めましたが、これを理由に殆どが辞めていきました。今では現地に指導資格を持った門下生がおりますが、やはり日本文化は日本人から直接学びたいという気持ちが強いようです。ある国のある道場で日本の道場における礼儀作法を教えた際、なかなか教えに従わない者がいたために注意したところ「おまえは日本人じゃないじゃないか! だから言うことは聞けない!」と屁理屈を言われたと聞きます。やはり初心者には日本人の指導が不可欠のようですね。ですから時々私が口を滑らせて「海外に移住しようかな……」と言っては日本の門下生に叱られています。

(写真:早淵先生の指導を受けるクレア・鯉天優・サンフォードさん)


 このように剣詩舞道単独の舞台出演や観覧に飢えている海外の門下生は日本で開催する年次大会には可能な限り参加しようとしますし、実際に回を重ねるごとに参加者は増えています。日本における吟詠剣詩舞の舞台、特に構成番組などのすばらしく組み立てられた舞台自体、彼らには自国ではなかなか経験できないものであると言います。


あこがれの武道館大会へ、いざ出陣!
欧州からやってくる3カ国9人の剣詩舞道家

 その彼らにこの度与えられた夢のようなチャンス、それは日本武道館で行われる全国吟剣詩舞道大会への出演です。私もこの夢にも思っていなかった出来事に驚き、そして喜んで早速海外の門下生にメールを送ろうとしましたが、彼らにとっては日本への旅行 はかなりの負担であると共に、早い時点で年間のバカンス計画を立ててそれに向けて貯蓄している彼らにとって突然の予定変更は難 しいものがあることが脳裏をかすめました。ですから、最悪の場合には参加者ゼロの可能性もあるのではとの一抹の不安がありま した。それでもまたとないこの機会を見逃すことはないと、各道場責任者にメールを送りましたところ、案の定、多くの門下生は前 述の理由により参加不可能でしたが、さすがにかのビートルズが公演した、そして武道を志す者にとっては一度は立ってみたい日本 武道館への出演、しかも「全国から吟詠剣詩舞道の先生方が集う大会へ出演できるといった名誉なことは二度とないかもしれない」 とポーランドから2名、イギリスから4名の出演が即決し、加えてフランスの門下生3名も参加すると後日連絡を受けました。

(写真左:風月道場(ポーランド)における剣舞)

(写真右:広い体育館が稽古場の静波道場(フランス))


 こうして九名が名乗りを上げ、私はなんとか舞台を務められそうでホッとし、胸をなで下ろしました。とはいうものの、中にはま だまだ経験が浅い者もいる上に、殆どのメンバーがまだ習っていない演題を、しかも合同で練習することは殆ど不可能である状態で、ちょうど今年の8月に南フランスで行う居合道の全道場合同講習会で集まる時の一回のみが合わせるチャンス。それ故皆様にご満足頂けるような舞ができるかどうかわかりませんが、それでも彼らは一生懸命に稽古してくると信じていますので、どうぞ温かく見守ってやって下さい。

 そして海外のお知り合いやお友達、またご家族の方々にDVD等でご紹介頂き、もっと多くの海外の方々に吟詠剣詩舞道の良さ を知って頂き、仲間になって頂きますよう、よろしくお願いいたします。

二〇一六年三月 日本にて
荒木無人斎流居合道第十六代
神伝真正早渕流剣詩舞道
宗家 早淵鯉將