心にしみる吟詠
吟詠とは日本人の心を歌う伝統芸道です。
子供から高齢者まで老若男女、誰もが楽しむことができます。
ここでは吟詠の魅力や、成り立ちを紹介します。
【吟詠の特徴】
吟詠は詩吟とも呼ばれる、詩に節をつけて歌う邦楽の
ひとつです。
吟詠のコンクールでは漢詩と和歌の詩が用いられますが、そのほかにも俳句、新体詩、現代詩など、どのよう
な詩でも吟ずることができます。
吟詠家は詩の内容をとらえ、歌によってその心情や情景を再現しようと心の底から吟じあげます。 詩の作者の気持ちが読み取れることが吟詠家の力量の高さを表します。
吟詠を聴くときには、吟じられる詩の意味や背景を知っているほど楽しめるでしょう。
ことわざとしても有名な「少年老い易く学成り難し」からはじまる、『偶成』はよく詠われる漢詩のひとつです。
【吟詠の音楽と発声】
吟詠のメロディーとなる節には、詩の心を表現するた
めに詩の句や単語といった一部の音を伸ばす節付けと、強弱がつけられます。音階はミ・ファ・ラ·シ·ドの五音構
成を用い、詩のイメージに合わせたテンポやリズムがつけられます。
吟詠を舞台芸術として多くの方に観ていただくために、日本吟剣詩舞振興会は「安定した音程で正しい音階の節を吟ずる」「吟の節付けは、話し言葉のアクセントを重する」「詩の内容を、音楽芸術的に感動を与えて表現する」を吟ずるときのポイントとしています。
【吟詠家の所作と衣装】
吟詠は舞台芸術であると同時に、礼節に重きをおく日
本の伝統芸道ですので、舞台では芸の始まりと終わりに演者が観客に対して礼の心を表すことが決まりとなって
います。
衣装は吟にふさわしいものを選びます。
男性の場合は和装では紋付に袴、洋装はダブルのスーツが一般的です。色は黒に限らず、春の吟には若草色、秋
の吟には茶系の色紋付などを合わせて詩の心を表現します。
女性の場合は和装が主流となっており、吟にふさわしい色や柄、模様の着物、帯、帯締、襟を組み合わせます。
そして男女ともに和装の場合は伝統芸能の約束にならい、扇を持つ習慣があります。
【吟詠の成り立ち】
吟詠のルーツは『古事記』や『日本書紀』の時代にある
といわれます。平安時代には貴族のあいだで漢詩や和歌を詠む朗詠が盛んに行われ、その後、武将や僧侶にも漢
詩や和歌を作る文化が広がりました。
漢詩を詠う朗吟がひときわ盛んになったのは、江戸時代後期の文化·文政期です。政策に儒教が採用されたこ
とから漢詩の勉学が進みました。 漢詩の読み下し文を詠んで学ぶ手法が現代の吟詠の母体となっています。
昭和に入ると和歌を詠う朗詠も盛んになり、漢詩·和歌の朗詠が老若男女に親しまれるようになります。特に
関東の木村岳風と、関西の真子西洲は吟詠の大衆化に尽力し、多くの後進を育てました。
戦後に停滞した時期もありましたが、経済復興とともに多くの新しい流派が誕生し、吟詠人口が飛躍的に増加。1968年(昭和4年)には日本吟剣詩舞振興会が設立され、以来、この伝統芸道を国民芸術として発展させる
ためにコンクールの開催や若手の育成に努めています。
【実力者「少壮吟士」について】
日本吟剣詩舞振興会では、吟詠の芸術的向上を図り、
吟剣詩舞道界の将来を担う人材を育成するために、高度な表現力や技術をもった吟詠家に「少壮吟士」という
称号を授ける少壮吟士制度を設けています。 【剣舞の特徴】 古武道の型を尊重した動きに特徴があり、刀の差し方
(帯刀) や斬り方、構え方といった基本動作に剣術や居合術などの刀法、礼法の影響を受けています。 【剣舞の衣装と小道具】 剣舞の始まりが武士などにあることから、衣装の多くは紋付きと袴の和装となっており、日本吟剣詩舞振興会のコンクールでは紋付きなど和服、または稽古着、袴着用
と定めています。 【剣舞の成り立ち】 広義での剣舞の起源は古く、奈良·平安時代には舞楽や
神社の神楽があり、中国(漢代)にも剣を持った舞があったことが伝えられています。 【詩舞の特徴】 主に扇を持って舞うところが剣舞と異なります。 【詩舞の衣装と小道具】 日本吟剣詩舞振興会のコンクールでは、詩舞の衣装は
和服、袴着用と定めています。 【詩舞の成り立ち】 中国には、詩を吟じ、それに振りを付けて舞う様子が記さ
れた3000年も前の詩が残されています。奈良·平安時代に多くの中国文化がもたらされたときに、その一つとし
て詩舞がわが国へ伝えられました。
勇壮清廉な剣舞
剣舞とは吟詠に合わせて刀や扇を持って舞う舞踊です。
演技者には、武人の心構えや武士道の精神、気迫、格調を備えていることが求められます。題材となる詩の心を理解し、武道の型を芸術的に昇華したところに剣舞の魅力があるといえます。
詩の内容を写実的に衣装で表すことはありませんが戦いの場面で鉢巻やたすきを用い、場面の激しさを演出す
ることがあります。
剣舞の名の通り、持ち道具の主役は刀です。江戸時代の武士が持っていた大小2本の刀のうち、剣舞で使用するのは大きい打刀のみの場合が多いです。(2刀流もあり)
持ち道具には扇や、演出によっては長刀などの武具も登場します。
吟詠によって演じる現代の剣舞は、明治維新後に剣士・榊原健吉が始めたというのが定説です。当時、武芸者たちが剣術試合を行っており、その余興として剣舞を披露したところ好評を得たといいます。
その後、鹿児島出身の日比野正吉と高知出身の長宗我部親が剣舞を芸道としてまとめたことから、さまざまな
流派が生まれました。
戦後は舞台芸術としてその芸術性を追究し、現代剣舞として優れた演技を生み出しています。
艶やかな詩舞
詩舞とは吟詠を伴奏に、主に扇を持って舞う舞踊を詩舞といいます。
吟詠の詩は漢詩だけでなく、和歌や新体詩なども幅広く用いられます。「詩を聞かせ、そして舞う」といわれ、吟と舞が一体となった演出が見どころです。
演技者は詩の心をつかみ、その詩の世界をある時は具体的に、ある時は抽象的に、緩急自在に表現します。
例えば、歴史上の人物が詠んだ詩の場合にはその人物を写実的に表し、情景を詠んだ詩の場合には詩の心を抽
象化して表すなど、詩の内容にふさわしく、振付の意図を盛り上げる衣装が用いられます。
扇は、日本舞踊などと同様に舞扇を使用します。演劇のような大道具は使わずに、扇を刀や笛などに見立てたり、身分や役柄を表す小道具として演出に用います。
現代の詩舞は、明治維新後に剣舞が誕生したことに始まります。剣舞に女流の剣舞家が登場し、好評を博したことから、女性剣士が刀の代わりに舞扇を用いることが考案されたといわれています。
現在は、剣舞の格調ある様式を受け継ぎ、総合的な舞台芸術として発展しています。