公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2024年5月




〈説明〉

あなた様のように熱心な愛読者の方が「二句三息」について十分理解されていなかったということは、まさしく筆者の私の説明がよくなかったということですね!?

 ご存知のように吟じ方というものは時代とともに変化してきております。一番大きな変化は、言葉の後の節回しが長くなり複雑になったということです。しかし全体的に大きな節回しはほとんど変わりなく、昔の吟を聞いても違和感はありません、次々と予想通りの節回しが出てきます。つまり、現代の吟の細かい節回しを省略・単純化したような節に聞こえるのです。もちろん、歴史的順序は逆で、昔の吟の語尾の節を修飾し、さらにコブシを重ねてできたのが現代の吟詠の節回しです。

 漢詩二行分の節を各一息ごとに五線譜に表してみました。西郷隆盛の「書懐」の一部です。

 第一息は「一葦わずかに西すれば」第二息は「大陸に通ず鴨緑」第三息は「送る処崑崙迎う」です。なお、上下二段の関係は、上が現代の吟、下が昔風の吟です。もちろん、流派・会派によって、多少の違いはありますが、昔の吟に比べ、現代の吟が語尾の節が長く、息継ぎの回数も多いことに気付いて下さればけっこうです。なお、この楽譜を見て、昔も今も大筋の節が大体同じだということを分かっていただくのは難しい方も多いかも知れませんが、第二フレーズ(第二息)をご覧いただくと、大筋の節が同じであることを理解いただけると思います。

 この第二フレーズについては異論のある方も多いと思います。それは、このフレーズが一句と二句にまたがっているからです。漢詩は、そのほとんどが二句ごとに一対となり、一つの事柄を表していますが、文章としては一句ごとに区切れていますので、「句を跨ま たいで歌うのは理に反している」という主張です。この理屈はよく分かりますが、音楽の立場からは、どうしてもこの第二フレーズを途中で切ることはできません。実はこれが詩吟に秘められた重要なことなのです。

 漢詩に節をつけて歌うことの始まりは、江戸時代末期の書生たちが漢詩を暗唱するため、二句ごとにまたがる節をつけて偶数句の頭を思い出しやすく工夫したことだとする説が一般的で、石川岳堂先生もうなずいていらっしゃいました。私が初めてこのことを知ったのは舩川利夫先生からです。詩吟に関わり始めた当初、二句目にかかってから節がとぎれることに違和感を感じたため、それを舩川先生に話した時に教えていただきました。つまり、またがりは意識的だということです。

 現代の長い詩吟の節を「二句三息」で吟じるためには呼吸の仕方が大切です。旧来の息継ぎの個所は時間をかけてたっぷり息を吸えばよいことですが、それ以外の個所はできるだけ間を開けずに呼吸する(息を盗む)ことが大事です。つまり、この個所に休止符は無いのですから、あたかも呼吸をしていないかのように息を継ぐことが必要なのです。この時、息を吐きだすにつれて腹部がへこんでくるような吐き出し方でないと、一瞬で息を吸うことが出来ません。これを腹式呼吸と言います。仰向けで寝ているとき、ほとんどの人が腹式呼吸です。簡単です!

 

  ※こちらの質問は『吟と舞』2020年4月号に寄せられたものです