公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2024年3月




〈説明〉

ご存知のように吟詠の人口は平成の初期を頂点として減少しつづけ、大きな会派で八分の一、小さな会派で四分の一くらいに減少してきました。
そして特に男子の人口は少なくなり、一会派から男子35人を選出することは難しく、まして同じ本数の吟者をそろえることなどは不可能といえる会派が多いことは容易に察しの付くことです。
つまり女子に比べ男子が不利であるとはいえるでしょうが、同じ本数の男子を35人そろえられる会派はごく一部の会派であると考えられますから、落選の主な原因は本数をそろえられなかったこと以外にあるのだと考えるべきです。

 合吟コンクールについては前回も述べましたが、上位入賞のチームは驚くべき努力をしてきたようです。
ほとんどのチームが合吟の練習を年間10回、多くても20回くらいといわれているところ、上位入賞のチームとなると、年間百回くらいの練習を続けてきたと聞きました。つまり週2回くらいということになります。
毎週2回の合吟を1年間続けることを想像しますと、中だるみやマンネリ化などが想像されますが、おそらく毎回課題を見出し問題の解決を目指してきたからこそ上位入賞を果たしたのだろうと察せられます。

 合吟の練習中、問題点に気付かずにただ回数のみを重ねてもそれは無駄な努力というものです。この点は指導者によるところが大きいと思います。
音程にばらつきは無いか? タイミングのずれている人はいないか?声量は十分か? 他を圧倒する特徴は十分か? など、磨き上げなくてはならない項目がたくさんあります。何が問題点かを感じなければ前進・進化は望めません。
また、 全体で訓練しなくてはならないことと、 個人の技術を磨かないと解決しないこととの 違いを見極めることも重要です。音程の不確かなメンバーの訓練をおろそかにしたまま合吟の訓練のみを重ねても、音程の確かな合吟にはなりません。
かといって合吟の練習の時に音程の悪いメンバーを集中的に訓練するのも効率が悪く、またチームワークを乱す原因にもなりかねませんので、指導者の力量が問われるところでもあります。

 ご質問は「本数の同じメンバーをそろえられないことが落選の原因か?」とのことでしたので、「ほかのチームも同じ条件なので特に不利とはいえない」とお答え致しましたが、異なる本数のメンバーで合吟をするときの注意点を少しお話ししましょう。

 水1本から4本までの異なる本数のメンバーが2本で合吟するときの発声音域の問題点が分かりやすいよう、(図1)に音域の比較を示しました。

 便宜上、吟ずる絶句が乙(ラ)から七(ド)までの音域だとして説明いたしますと、すぐに気が付くのが、水1本の人と1本の人が2本のに声が届かないであろうということです。
水1の人は六も厳しいと思われます。「1本違いだからなんとか頑張って………」と思うのは間違いです。「大体同じ」という音程の声は出るでしょうが、「大体ではだめなのです。先月号で説明致しましたように、少しでも低い音程の声が二人でも一人でも混ざっていると雑音になるのです。雑音は減点に結びつきます。
また、2・3人の声が低めになると全体に低めの印象が漂います。つまり全員の足を引っ張ることになるのです。最初から水1の人は2本の五まで声を出し、六と七は発声しないことに徹底しないといけません、また3本と4本の人たちはの時に大きな声を出そうとして音程が上ずってしまわないように気を付けなければなりません。
小さな声でもよいので正確な音程で吟ずることを優先しましょう。逆に、水1や1本の人たちは声の出ない人たちの分まで頑張って乙の声を張りましょう。そして3・4本の人たちは、みなの分も頑張って六・七の声を張って目立ちましょう。

 練習の時は心掛けているつもりでも、本番になると「何とか出そうだ!」と思って苦しい高音を絞り出さないことが肝腎です。苦しい声は聴く人をも苦しめます。

 このような連携が合吟には大切なのです。
最近は出し物・特番などで2部合吟や3部合吟などハーモニーを駆使した合吟が多くなってきました。近い将来コンクールにも登場してくるような気がします。
吟詠では一般的なリズムを用いないため、2部合吟などではなおさらに連携の技術が大切になってきます。



  ※こちらの質問は『吟と舞』2020年2月号に寄せられたものです