公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
Nippon Ginkenshibu Foundation
News
English Menu
吟詠音楽の基礎知識 2023年9月



〈説明〉

 最初に「ファ♯」について説明します。
「ミ」を主音とする陰音階(詩吟の音階)「ミファラシドミ」のうちの「ファ・ド」を半音(1本差)高くすると「ミファ♯ ラ シ ド♯ ミ」となって陽音階になります。
なおこの音階は♯の記号を使わなくて済むように「ソラドレミソ」と唱譜することもできます。
また陰音階の「ミファラシドミ」の「ファ・ド」を1音(2本差)高くすると「ミソラシレミ」となって民謡音階(尺八音階とも)となります。
この音階で俳句を吟じる会派が多いです。
このように5音音階のうち主音宮音から数えて2番目の音を商音、4番目の音を羽音といい、どちらも表情を表す音であり、音程が変わると音階が変わります。
つまり吟じ出しで「ファ♯」を使うということは陽音階で吟じ出すということなのです。
 現在の吟界では極めて少数派となりました四を用いた吟法ですが、以前はもう少し多く聞かれていました。
また吟の途中の節回しの中でも四の音がよく使われました。
多くの吟詠会の創始者には琵琶楽出身者が少なくないので、琵琶歌に使われる陽旋法が無意識に使われたのだと考えるのが自然であり、
そういうメロディーを耳にし影響を受けた吟詠家も多かったと考えられます。

 このように、かつては珍しくなかった四の音も最近ではほとんど聞かれません。
これは明らかにコンクールの形態がもたらした結果です。
コンクールはその立場上、公平さを重視するものですから、生伴奏からカラオケ伴奏(音程ガイド音も)へと変化していく時、
陽音階は度外視され、これらのカラオケでは陽音階の出番がなくなったのです。
しかもこれらのコンクール用カラオケはコンクール以外の目的にも使用されることが多くなり、招かれての来賓吟詠でも陽音階で吟ずることが難しくなりました。
 最近、四の出を使う会派でシンセサイザーを使う伴奏者の方とご一緒しました。
その方は長年吟界で伴奏をされてきた方で、私もよく存じ上げる方なのですが、四の出は初めてとのことでした。
それほど四の出は少数派なのです。しかし考えてみてください。
全国的に会派による特徴を失い続けてきた吟界には、会派の特徴こそ、今一番大切であり振り返ってみなければならないことではありませんか?
 多くの流党がコンクールのための吟法を指導し、中には独自の伝統的吟法を葬り去って、コンクールのための吟法を自分たちの流党の吟として
指導している会派もあります。かつては関西を中心に特徴的吟法が自慢の会派が沢山ありました。
それぞれ違った魅力があり、それが当時の吟界の発展に大きく関与していたのではないかとさえ思われます。

 和歌の途中に四の音が出てくるととても新鮮です。想像がつきますか?
心当たりのある会派の皆さん、是非四の音を復活・発展させてください!
 四の吟じ出しが少なくなったのに反し、「ドファー」の吟じ出しが明らかに増えてきました!
結論を先に申し上げます。平板の吟じ出しに「ドファー」は間違いです!
 意図があって敢て選ぶのなら話は別ですが、特別な事情がなければ「ドファー」はアウト! です。
 少なくとも十年前には「鞭声……」を「ドファファファ……」と吟じた人は皆無だったはずです。
以前は「ミファファファ……」か「ドミミミ……」のどちらかであり、近年になって「レファファファ……」がよく使われるようになりましたが、
「ドファファファ……」という平板はごく最近聞かれるようになったばかりです。
想像するにこの「ドファー」という音型は、紙の上で、音を聞かずに書いてしまったものと思えます。
「ド」と「ファ」を同時に聞いてみれば詩吟でないことはすぐに分かるはず!
この音で指導を受けた人は何も疑わず繰り返し練習したのでしょうから、しまいには違和感なく慣れてしまうのでしょう。
違和感がなくなるということは、和音感覚もなくなるということです。
昔から吟詠家が、平板であろうと、中高であろうと全て「ドミー」と吟じたくなるのは吟詠の
基本和音の「ラドミ」が常に頭に響いていたからなのです。
ですから「花は……」も「ドミミ……」と吟じたいところですが、コンクールにアクセントの規定が盛り込まれ、
苦し紛れに「ドファミ……」と吟じたのです。
この時吟者は「ファ」を使ったとは思っていませんし、聞いている人も「ファ」は聞かなかったことにしているのです。
あくまでも「ドミー」のつもりです。
ところが中高の語には「古より……」のように中四高の語もあり、「ドミー」を使いたくても「ドファファファファミ……」となり、
ほとんど「ドファー」となってしまうのでこのことを「ドファ」の不都合 と名付けて今まで何度もこの講座に取り上げました。
「古より」の吟じ出しは、アクセントを守ろうとすれば、「レファファファファミ」か「ファララララファ」くらいなのです。
今回の平板の語における「ドファー」の問題は「ドファ」の不都合にも引っかからない論外です!



  ※こちらの質問は『吟と舞』2019年7月号に寄せられたものです