〈説明〉
ウラ声の問題は95パーセント女性に関する問題です。例えば30年前、ウラ声は皆無だったといってよいでしょう。私が思うに剛吟よりも柔吟が好まれるようになったのと同時期にウラ声が使われるようになったのではないかと思います。詩心表現の為、柔らかい発声をしようとしてウラ声になるのではないかと思います。男性ならばウラ声になった瞬間に、弱弱しく情けない声になるので、自他ともにすぐに分かるのですが、女性の場合は日常会話の中で常にオモテ声とウラ声を使っているので、高音部では特に異常とは感じない程度のウラ声を使える人が多いのです。つまり男性のウラ声は誰が聞いても分かりますが女性のウラ声は分かりにくい場合があるということです。
女声の吟がウラ声かオモテ声かを確かめる方法として、本数を1本ずつ高くしてみるという方法があります。高くしていくにしたがって苦しそうになったり、声がひっくり返ったりするようでしたらオモテ声だったということになります。逆に本数を上げても声がひっくり返らず、10本、11本、12本といくら高くしても吟じ続けられるとしたら明らかにウラ声によるものと判断できます。またもう一つの方法として高音域の節で「ラシドー㋯ドー」と発声してもらい、㋯がはっきりとウラ声になっているかを確認するのも良い方法だと思います。
最初に申し上げたように、柔らかい表現をしようとする為、ウラ声になってしまう場合とは別に、詩心表現とは関係なく女性が皆6〜8本であると決めつけられ、初心者の頃から6本以上で吟じさせられたことがきっかけで最初からウラ声で始めることになった人も多いのだろうと思います。女性でも還暦を過ぎてから詩吟を始める時は水2本くらいから始めることが賢明と思います。特にコーラスなどでソプラノを担当してきた方や、普段カラオケなどを楽しんでおられる方は極端に低い本数から始めないと、90パーセントの確率でウラ声になってしまいます。このことは指導者にも大きな責任があると言わなくてはなりません。「本数は高いほど良い」と教えられてきた方も多いと思いますが、それは指導者の勘違い、又は教わる側の聞き違いなのです。教える側の勘違いとは「上手な人はみな本数が高い」だから「本数を上げれば上手になる」という勘違いです。上手な人と本数の分布をイメージしてもらえるように図に表しました。図から分かりますように8本調子の方でも上手の範囲に入らない方が殆どです。精進練磨を重ねた結果、周りの人に比べ高い本数で吟じるようになった人もいるでしょうが、本数を高くするための練習だけでは上手の範囲にはなかなか入れません。
もう一つ大きな問題があります。それは、会員さんがウラ声で吟じていることを承知で、指導者がそのままにしている場合が非常に多いということです。理由は「精神的に傷つけたくない」「詩吟を嫌いになってほしくない」からです。女性会員が皆6本以上なのに一人にだけ「あなたは今日から2本で吟じなさい!」と言える指導者はほとんどいません。男声が水1〜4本と幅が広いのに対し、女声は6〜8本に集中していることが異常なのです。70歳を過ぎて6本の人を35人揃えるなんてこのご時世では無理な話です。70歳を過ぎてなお6本で吟じられる方は普段からよほど精進を続けていらっしゃる方です。
貴女の本数は適切ですか?(ビブラートについてはまた次回・・・・・・)
※こちらの質問は『吟と舞』2019年3月号に寄せられたものです