〈説明〉
今回は、ご質問というより、少壮コンクールに対する苦言として受け止めなくてはならない内容と思いますし、ましてや吟詠音楽に直接関わるお話とも思えませんが、審査員の一人として何らかのご返答をしなくてはならないと思います。
コンクールの運営に関する方法などは以前とほとんど変わりはありません。決定的な違いは吟詠人口の違いだと思います。ご存知の通り、平成に入ってからの吟詠人口の減少は、恐ろしいほどの勢いで続いています。原因はいろいろと考えられるでしょうが、不景気や少子化などを含め日本全体の変化が吟界にも押し寄せているものと思っています。
現在、公財日吟振は「スーパーチーム」を代表とする若年層の発掘と育成に力を注いでおり、以前では想像もし得ない成果を上げているといってよいと思いますが、少壮コンクールにこの成果が及ぶまでには物理的に年数が必要であることは仕方ないと思います。もちろん、並行して30代・40代の吟詠家を育てることも必要ですが、限られたエネルギーを考えるとやはり将来の人口増強につながる若年層に力を注ぐのは適切な方針ではないかと思います。武道館の合吟コンクールの参加団体が減少してからは、流派・会派を超え、県総連単位の合同チームを認めるなどの工夫をしたり、近年では出吟者数を55名から35名に減らすなどして出場チームの減少をしのいできましたが、根本的な施策とはならず、吟詠人口の減少は止まりません。人口の減少は当然コンクールへの挑戦者の減少につながり、それが予選コンクールの開催減少につながり、その結果、技術の未熟な吟者が決勝へ進出することになるのだと思います。
コンクール終了後の審査講評の折、調和審査の立場から、「今年は例年に比べ、技術のレベルが低かった」と申し上げました。調和の得点は20点満点ですが、例年18点の方が数人出るところ、今回は17点が最高点でした。17点と18点の違いは音程の安定度の違いです。柔らかい発声と力強い発声とでは音程の安定度において違いがあります。もちろんどちらも正確な音程による吟詠であることが前提のお話です。音程が不安定でありながら力強い発声というものはありません。安定した音程が安定した声の響きをつくり、安定した響きが力強い発声を可能にするのです。つまり、例年より力強い吟声が少なかったということになります。
また、詩文を見ながらの吟詠が多かったとのお話ですが、これは今回に限ったことではなく、年々暗記する方が少なくなってきています。この変化は、やはり競争率の変化だと思われます。コンクール規定に暗記の条件はありませんが、昔は「暗記しないと入選しない」という常識のようなものがあって、入選を真剣に考えている吟者はほとんどが「暗記」でした。しかし、年度が下るにしたがって、暗記しない吟者も入選することが多くなり、この流れがなお一層詩文を見ることを一般化したのでしょう。
稚拙な吟が多かったとのお話については私もそう思いました。しかし私がそう感じ始めたのは数年前からです。稚拙・未熟と感じる主な点は「コブシが無い」ということです。コブシを用いない吟は流れが悪くいかにも初心者という感じです。また、コブシを使っていても回す速度が遅くギクシャクして聞きづらい吟も同じです。15年くらい前は、コブシが得意でこれ見よがしに山盛りのコブシで吟を飾る人を私は批判的に評していました。しかし今は逆に「もっとコブシを練習しましょう」と言うことは多くなりました。
出吟者の数によって入選者の数を変えてはどうかというお考えはごもっともと思います。しかし入選者の数を減らすことは、門を狭くすることですから、望み薄と感じてまたぞろ挑戦者が減ってしまい、悪循環になるのではないかという心配もあります。
人口が減っても吟のレベルが高くなるような施策はないものでしょうか?
※こちらの質問は『吟と舞』2018年5月号に寄せられたものです