公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
Nippon Ginkenshibu Foundation
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吟詠音楽の基礎知識 2022年8月




〈説明〉

コンクール用カラオケを制作した音楽会社より各曲のイメージなどを説明した一覧表が提示されていますが、重要なのは、伴奏曲を聴いて、吟者がどう感じるかが問題なのです。「不識庵機山を撃つの図に題す」を吟ずるとき、勇ましい演奏を選びますか?静かな伴奏を選びますか?恨みに満ちた強い音を選びますか?「鞭声粛々夜河を過たる」を音楽に求めるか、または「遺恨十年一剣を磨き」がこの詩文の本題であると考えるか、読む人によって詩文から感じ取る印象は異なる場合があります。ましては音楽は抽象的なものですから、同じ音楽を「強い」と感じたり「重い」と感じたり「暗い」と感じるなど人さまざまです。

最も好ましくないのは、指導者など本人以外の人から「この伴奏曲で吟じなさい」と指示され、本人は曲の内容を一切考えずに指示に従ってしまうことです。これまでに度々申し上げてきましたが、剣詩舞の皆さんは言葉を用いず振りで表現する立場であるため、どうしても言葉よりも抽象的になります。そのため、必然的に振りの意味を考え、それを指導する人も指導を受ける人も、詩文の意味はもちろん、詩の背景なども考えざるを得ないのです。これに対し、言葉を用いる吟詠は、読み間違えさえなければ成り立ちます。そのためどうしても声や節回しのみに関心が向き、詩文の内容を考える機会が少ないのです。ですから伴奏曲を選択するという精神活動(大袈裟?)は詩文の内容を考えるチャンスなのです。そのチャンスを奪ってしまう指導者は良い指導者とはいえません。

8年ほど前に、その年の課題吟にふさわしい伴奏曲を列挙するよう、財団本部より要請がありましたが、すでに制作会社より各曲のイメージを一覧表にして発表されていたためと、さらに上記の理由により、ふさわしくない伴奏曲の一覧表を提示しましたが、採用されませんでした。今振り返ってみますと、全国の吟者全員がカラオケのテープまたはCDを持っているわけではないので、各人が全曲を聞いて、その中から1曲を選ぶということが出来ないという事情があったのだと思うと、私が主張した「各人で考えないと……」は余計なお世話だったのでしょう。しかし当時に比べればはるかに多くの人がコンクール用のカラオケをお持ちだと思いますので、あらためて同じ主張を繰り返したいと思います。


各伴奏曲を聞いて「奇麗」「寂しい」「楽しい」「勇ましい」「静か」などの印象を自分なりに書きとめ、整理しておけば毎回悩むことはないと思います。ここで一つ承知しておいていただきたいことがあります。それは「4本調子の勇ましい伴奏曲」は「3本調子」でも「勇ましい?」とは限りません。それは箏・十七絃の調絃の都合によって印象が異なるためです。伴奏曲のモデルとなった最初の吟がたまたま4本調子だった場合、4本の調絃で、勇ましくなるように作曲されていても、3本調子になると8本と同じ高い調子となり、キラキラとした音色で、運指(手の動き)も変わりますので聞いた印象が変わってしまいます。ですからあくまでもご自分の本数の伴奏曲を聞いて判断しなくてはなりませんので、少なくとも自分自身の本数のカラオケは手に入れておく必要があります。上に私が伴奏曲を聞いた時の印象を紹介しますので参考にして、皆さんも同じようにご自身の感じた印象を書きとめ整理しておくとよいでしょう。