公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2025年1月






 

〈説明〉

 ①ハーモニー感覚を養うためには、発声練習をしながら音程に応じたハーモニーを聞くことが有効です。「三(ミ)」の声を発しながら聞くべき音は「乙二三(ラドミ)」又は「一三(シミ)」です。この二つの和音を交互に聞きながら「三(ミ)」を発声しましょう。この時大事なことは、自分の声より和音を奏でる楽器の音の方が大きく聞こえる状態にすることです!イヤホンやヘッドホンなどを使うとよいでしょう。以下に、発声する音程と聞くべきハーモニーの組み合わせを示します。しかし、説明を目で追っているだけでは理解できず、飽きてしまいますので、実際に声と音を出しながら試してみましょう。(表1参照。カタカナの和音表示と漢字譜の順番が異なる場合がありますが和音は同じです。)

 発声する声の高さによっては楽器の音程を1オクターブ低くした方が適している場合もあります。

 この練習を繰り返すうちに、例えば「五(ラ)」を発声するとき、和音が「ラドミ」のときと「レファラ」の時では発声の仕方を変えたほうがよりハモるということに気が付くようになります。そして、そこまでになればハーモニー感覚が身に付いたということになります。

 ②ここからは「月夜三叉口に船を泛ぶ」を題材に説明してゆきます。

 吟じ出しの「三叉中断す」の部分は伴奏が無音の場合があります。無音の場合には自由な節調が選べますが、前奏の最後が「三′(ファ)」の場合にはやはり「三叉(五三′)中断す(二′三′)」と「ファ」を主体とした節を選ぶとよいでしょう。また近年ではほとんどの会派が「ファ」の吟じ出しをもちいています。ただし、前奏の最後が「三(ミ)」であり吟じ出しの伴奏が無音の場合には「三叉(三三′)中断す(二三)」でも良いことになります。

 「大江の」は「五六(ラシ)」と「三′五(ファラ)」が考えられますので、伴奏によく合う方を選びましょう。「秋」は「五三′ 三(ラファ ミ)」又は「三′三(ファミ)」のどちらが合うか検討しましょう。

 「名月」は「二一(ドシ)」がほとんどですが中には「一乙 一(シラ シ)の場合もありますので気を付けましょう。

 「新たに」「かかる」はほとんど「三′三(ファミ)」「二三′三(ドファミ)」でしょう。

 「万里の」は「六五(シラ)」か「七六(ドシ)」のどちらかでしょう。

 「流れ」は「二三(ドミ)」で合うと思いますが、一応確かめましょう。

 転句は会派によって様々と言えますが比較的多いパターンを例に挙げてみますと「碧天に」「向かって」は「五六(ラシ)」「五七 六五(ラド シラ)」や「三七(ミド)」「五六 七六五(ラシ ドシラ)」などがありますし、どの部分を延ばすかによっても合う、合わないの違いが出ます。

 「玉笛を」「吹かんと」は「五六(ラシ)」「五七六(ラドシ)」又は「五七(ラド)」「七八七(ドミド)」などを試してみましょう。「欲すれば」は「二三′三(ドファミ)」か「三′五三′三(ファラファミ)」のどちらか?

 「浮雲」は「二一(ドシ)」か「三二 一(ミド シ)」の場合が多いです。「一片」は大抵「二三(ドミ)」ですが、そのあとが上がる場合と上がらない場合があり、上がる場合も2種類あり「ンン~」が「三′五~(ファラ~)」と「三′五~六七六~(ファラ~シドシ~)」が有りますので、どちらが合うかを確かめましょう。

 「扁舟に」は「三七(ミド)」又は「五六(ラシ)」を確認。

 「落つ」は「五三′三(ラファミ)」又は「三′三(ファミ)」のどちらかでしょう。

 このようにそれぞれの節調を試してみることで伴奏のハーモニーとよりよく合致する節調を探ることが出来ます。

 ③ここまでの説明の中にもありましたが、節の検討だけでなく、どこを延ばしどこを短く読むのかによっても伴奏とのハモり具合が変わってきます。

 最後に念押しでひと言申し上げますが、皆が皆このような作業に熱中しますと、益々全国の吟詠が画一的になるような気がしてなりません。しかし、一方では「こんなに面倒なことに熱中する人も珍しいだろう」と高をくくっている気持ちもあります。

 

 ※こちらの質問は『吟と舞』2020年12月号に寄せられたものです